最近は、いわゆる悪徳商法の被害に遭った方たちに話を聞くと、
「あんなにいい人がそんな悪いことをするはずがない」
と皆さん口を揃えておっしゃいます。
「話を聞いてくれたから」「プレゼントをもらったから」
「いい人」にお金を払っただけで、まさか自分がだまされた
とは思えないというのです。
よくある話だけれど、ちょっとお人好し過ぎるのではないか
と思うかもしれません。
ところで、「返報性の原理」という言葉をご存知でしょうか?
「返報性の原理」とは、人から何か施しをしてもらうと、
お返しをしなければならないという感情を抱く心理法則のことを
指しますが、誰にでも心当たりがあるのではないでしょうか。
「返報性の原理」は、誰にでも心当たりがある心理法則ですが、
特に高齢者はその傾向が強く、悪徳業者に利用されてしまう
トラブルが後を絶ちません。
そして、残念ながら、お人好しに限らず、
「堅実で」「義理堅く」「人情深い」「しっかり者」が
だまされやすいようです。
堅実だからお金の話に弱く、
義理堅いからドアを開けてしまい、
人情深いからつい同意してしまう、
しっかり者だから誰にも頼らない。
悪徳業者を「いい人」と信じ込んでいるため、周りの人から
契約について不審な点を指摘されると「そんなはずはない」
と意固地になってしまう。
そうこうしているうちに、本当に心配して見守っている人、
手を差し伸べて助けようとする人までも遠ざけてしまう
かもしれません。
このような消費者問題の相談窓口として国民生活センターがあり、例えばこんなアドバイスがあります。
「巧みな話術……不審を感じたらきっぱり断ること」
「不安な場合は……相談しよう」
確かにその通りです。
しかし、そもそも、巧みな話術だから不審を感じない、
不安を感じない、相談しないのではないかと思うのです。
では、どうすれば消費者トラブルを未然に防げるのでしょうか?
まず図1が本来の「返報性の原理」です。
悪徳業者「無料プレゼントをどうぞ。」
あなた「ありがとう。お礼に商品を買います。」
相手からの好意に対して、こちらも好意で応えようとしています。
この場合、相手が悪徳業者であれば、消費者トラブル発生です。
次に図2です。
①受け取らない
悪徳業者「無料プレゼントをどうぞ。」
あなた「ありがとう。でも無料プレゼントも商品も
いりません。」
最初から相手からの好意を受け取らない方法です。
しかし、せっかくの好意を無下に断るのも心が痛みます。
その時は、受け取ること自体が応えることだと自分に
言い聞かせるのもいいでしょう。
②返さない
悪徳業者「無料プレゼントをどうぞ。」
あなた「ありがとう。でも商品はいりません。」
相手からの好意を受け取りつつ、何も返さない方法です。
しかし、「返報性の原理」を曲げるのは難しいことです。
また、あまりにドライすぎるのも人間性を疑われるような
気がしてなりません。
そこで、図3です。
③ほかの人に返す
悪徳業者「無料プレゼントをどうぞ。」
あなた「ありがとう。ではほかの人に親切にします。」
相手からの好意を受け取ったら、ほかの人に返す方法です。
これならば、こちらも好意を与えることができ、
「返報性の原理」を曲げることなく、消費者トラブルを防ぐ
ことができる妙案と言えます。
とはいえ、昔から「恩送り」という習慣が日本にはあって、
今さら「妙案」などと大々的に持ち出すまでもないのでした。
もちろん、消費者トラブルに遭ってしまった後でも、
クーリング・オフや、契約の無効・取消、少額訴訟などによる
救済制度はあります。
もっとも、「絶対確実に取り返せる!」なんて、
悪徳商法でもない限り、断言はできませんのであしからず。
【参照】
◆国民生活2013年8月号
「返報性の原理」のほか「だまされる仕組み」を解説しています。
◆エフコープ生活協同組合
簡単な質問で自分がどんな「だまされるタイプ」かがわかります。
◆「影響力の武器」ロバート・B・チャルディーニ
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